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※03/15HARU新刊プレビュー。
サイト作品「何でも屋」の過去編ですが、この本単品でも読める仕様になってます。
狙撃手ロックオンと軍人アレルヤの話です。
NOTEに掲載していた「ロックオン過去妄想1」・「ロックオン過去妄想2」も加筆修正して収録してます。
――――――いわゆる裏の社会というのは、少なくとも一カ国につき一つは必ず存在している。
その社会は表以上に綿密につながりがあって、隣接する他国ともつながっている事などよくある話だ。
特に、随分昔に国家間の境目をなくした欧州では隣国との情報交換が盛んで、国をまたいで仕事が舞い込むという事さえある。
そんな流れで、つい先日南イタリアでの仕事を終えて戻ってきたロックオンは、数ヶ月ぶりに馴染みの店の入り口に来ていた。
半地下のような場所にある店は、道沿いにありながら辛うじて看板が見えるというだけで、その上小汚いものだから眉を顰められることはあれど、目に留まることなど滅多にない。
看板の寂れ具合の割に店の名前は天使の名を冠していて、その滑稽さはいつもロックオンに久しぶりの笑みをもたらす。
当然ながら、その笑みは口が歪むだけの形だけのものなのだが―――そもそも笑うという行為自体を忘れてしまった彼には、十分に笑みと呼べる代物だった。
「ご無沙汰じゃないか」
皆が避けるこの店に続く階段を下って立て付けの悪い扉を開けると、看板と同様、お世辞にも美しいとはいえない店内がロックオンの視界に広がり、これまた馴染みの店主が口角を吊り上げて挨拶をしてくる。
その周囲にはまるで倉庫の机のようにたくさんの工具と機材が置かれていて、やはり店らしくない様相を呈していた。
背後にある棚にも似たようなものが沢山積まれているから、もはやここは店というより、本来倉庫なのを無理矢理に店だと名乗っているようなものだろう。
そんな事を思ったが、こんな「店」に通う自分も自分。
この店でしか手に入らないものもあるのだし、これも仕方ない、と諦めて、店主の挨拶に社交辞令で答えてやる。
「仕事でイタリアに行ってた」
「なるほどな。どうだった?この時期はバカンスで賑やかだったろう」
「…おやっさん、そういう話なら普通の客にしてくれよ」
ため息混じりに文句を言うが、おやっさんと呼ばれた店主は取り合わない。
無精ひげを撫でながらひとしきりからかった後、やがて満足したのかようやく店主らしく商品整理に戻っていった。
「いつものでいいですか?」
「ああ」
奥に引っ込んでいった店主と交替するように寄ってきた店員の少年が、愛想笑いを浮かべながらロックオン御用達の商品の箱を持ってくる。
中身の状態を確認する為に少年が箱を一度開けると、そこからはカチカチという金属同士がぶつかる音と共にライフル用の弾丸が飛び出してきた。
ロックオンがこの寂れた店に通う理由が、これだ。
以前は他の店でも買っていたのだが、どこの店でも一度か二度、錆び弾が混入していたことがあったので、そういう店には通わなくなっていったら、最終的にこの店だけに通うようになっていたのだ。
この店は、絶対に錆び弾が入らない。
その上、ここでしか買えないような非合法であろう珍しい弾や銃もある。
店主の人柄はともかく、この店はロックオンが仕事をするにあたって、なくてはらなない場所だった。
「ストラトスさんは、常連の中でも一番の腕ですよ」
「仕事を見たことがあるのか?」
「いいえ、ありません」
少年は丁寧に弾をひとつひとつ手元のライトで確認してから元の箱に戻していく、という作業をしながら、ロックオンに笑みを向ける。
「でも、常連の中で、一番うちに来る頻度が低いのがストラトスさんですから」
なるほど、そういう指標もあったか。
手早く点検と箱詰めをしていく少年の指を見ながら、ロックオンは思わず感心する。
常連客の腕前を、彼は既に銃火器店舗の店員という視点から的確に見抜けるのだ。
銃弾を頻繁に仕入れる者は、それだけ仕損じていると判断しているのだろう。
普通なら仕事量等を考慮して来店頻度からは測れないと考えるべきだろうが、しかし、それはあくまで「普通」の場合の話だ。
この世界で仕事をするものは、馴染みの店であってもあまり顔を出すべきではない。
定期的かつ頻繁に通う店があっては、それだけ足がつきやすくなるし、関係なくとも他人に顔が割れる危険もある。
人のつながりというのは恐ろしいもので、一見何の関係もないと思われた人間に目撃されたことで人生を終えてしまった者もいる。
それを考えると、やはり少年の予測は限りなく正しいといえた。
「あと、これは店長の受け売りですけど」
五百発もあったというのに、たった数分で全ての点検と箱詰めを終えると、それを市場で食材を入れるような紙袋に詰めながら少年が補足する。
「『この弾を最小単位で買ってく客は、最高の狙撃手としての素養があるか、既に達人の域の狙撃手かのどっちかだ』、と」
「…一体何教えてるんだ、おやっさんは」
「でも、もうヨーロッパ連合ではあなたの名を知らない者はいない、って、一度だけきたお客さんが言ってましたよ」
なんだか憧れちゃいます、と彼は笑いながら紙袋を手渡してきた。
愛想笑いさえ浮かべることなくそれを受け取って、ロックオンは思わず苦い顔になる。
「そんな事を赤の他人に言うようじゃ、そいつはもう生きてないな」
ロックオンが言うなり奥で豪快な笑い声と共に「違いない」という相槌が聞こえてきたが、ロックオンは答えずに踵を返した。
その拍子に、いきなり少年がロックオンの袖を掴む。
「すいません、忘れてました!これおまけ」
「ん?ああ」
振り返るなりいかにも甘ったるそうなチョコレート菓子の包みをいくつか渡され、半ば反射的に受け取ってしまった。
ロックオンは、思わずお前が食べてくれ、と突き返そうとしたが、その包みの一枚が明らかに膨らんでいるのが見えた為に思いとどまる。
おそらく、情報漏洩を恐れるような組織からの依頼だ。
店を出ながらこっそり包みを開いて確認すれば、そこには依頼照会番号だけが書かれている。
(ティエリアだな。――――――…また面倒な仕事が来そうだ)
情報屋の顔をふと思い浮かべながら、ロックオンは開いてしまった包みに入っていたチョコレートを口に放り込む。
噛み砕いてみれば中にはブランデーが入っていたので、これならばなんとか自分にも食べられそうだ、と密かに安堵した。
ティエリアから流れてくる依頼は、大抵の場合大口か、限りなく危険か、限りなく馬鹿らしいかの三種類に限られる。
大口の依頼と限りなく危険な依頼が来たとき、それはロックオンくらいしか適任者がいなかった依頼。
馬鹿らしい依頼が来たときは、ティエリアの機嫌を損ねてしまった時だ。
最近は彼との付き合い方も分かってきたから、彼の機嫌を損ねるようなことはしていない。
ということは、少なくとも馬鹿らしい依頼ではないだろう。
(さて、どんな依頼かな)
自分の身も少なからず危険なのだろうが、とにかく退屈な依頼でなければいい。
そんな剣呑なことを考えながら、ロックオンは夕暮れの街へと消えていった。
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こんなんです。
どシリアスだけど所々でアレルヤがボケまくってます
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