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Nobody.

※6月新刊プレビュー。アンニュイなロクアレ





 

「――――――この間の買出しのついでに買っておいたのがあるんだ」

自室の部屋の扉を開けながら、ロックオンはアレルヤをちらりと半分だけ振り返る。
片目だけを向けているせいなのか、その眼差しが少し鋭いように感じられて、アレルヤは一瞬怯んだ。が、何とか相槌を打つことに成功した。
その不自然さは間違いなくロックオンに伝わっているだろうが…彼は何も言わずに豆が入った缶に手を伸ばす。
それから、雑然とした棚の奥から珍しく手挽き用のミルを取り出して、豆を入れた。
その分量はいつも適当で、今日も彼は計量カップの目盛を無視して山盛りをミルへと投入している。
曰く、『毎回違った濃さや味が楽しめていいだろうが』との事だが、常に同じ味を求める者―――主にティエリアには不評だった。

「お前さんに淹れる時は、いつもの入れ方でいいから楽だな」

「そうですか?」

「ティエリアに入れるにしても、刹那に入れるにしても、注文が多いからな」

そう言って肩を竦めると、がりがりとミルを回し始めた。


いざ作業が始まってしまうと、途端に話すことがなくなる。
何か話すことがあるらしいロックオンを相手に、何を話したらいいのかが分からない。
込み入った話をしたい時に部屋でコーヒーを入れたがるのは、ロックオンの癖なのだ。
そんな事さえ失念していた自分にも驚きだったが、それ以上に彼の話の内容の方が気になっていた。
心当たりがあるだけに、居心地悪くさえある。
その心当たりとは―――――先ほどのミッションでのこと。

「アレルヤ」

手元は止めないまま、ロックオンは思いのほか静かな声で、アレルヤの名を呼んだ。

「…なに?」

「ミッション中、珍しく上の空だったじゃないか。どうしたんだ?」

責める風でもなく、ただ気になっただけというような語調だった。
やはりきた。
半ば予想通りの言葉に、何故かアレルヤは安堵した。

(…あれだけぼうっとしてたら、バレるよね)

自分の行動を思い出しながら、アレルヤは内心で苦笑する。
ミッション中だったというのに、通信でロックオンが確認してきた内容を聞き逃して聞き返す事三度。
攻撃範囲をうっかり忘れてロックオンの射撃範囲に入り込み、誤って撃たれかけること二度。
その上当たりそうもない相手の攻撃を何度も食らっていては、ただでさえ鋭いロックオンが気づかない筈がない。
今日のミッションでの数え切れない失態を思い出していると、急にロックオンの顔が近くなる。
その表情は、茶化すことさえ許されないほどに真剣だ。

「お節介だというなら悪かった。お前さんから変な気配を感じたもんだから、どうしても気になって」

「変、って」

「気づいてなかっただろう?考え込んでるとき、少しだけだが雰囲気が変わってるんだ」

十中八九、彼が言っているのは『ハレルヤ』と対話をしている時のことだろう。
確かに、ミッションの前後で多少やりとりをしたのだが――――口にさえ出さなければ問題ない、と思っていた自分の甘さを思い知った。
そういえば、出会ったばかりの頃も、一度ハレルヤの存在を感知しているのではないかと思えるような事を言われたものだった。
相反する人間が二人一緒にそこに立っているみたいだった、と。
与えられた変革の力―――ガンダムを目の前にして揺れ動く自らの思考を人物に例えただけとはいえ、その鋭さには舌を巻いた。

「――――――よく、分かりますね」

「そりゃ、よく見てるからな。気づかない方がおかしい」

おどけた調子で返すが、彼の眼差しはやはり真剣だ。
その目を見てはぐらかすことは不可能と察したアレルヤは、どう答えたらいいのかわからず、困り果てる。
自分でも回答の見つかっていないものを他人に説明するなどと、できよう筈もないのだ。



「…言いたくないなら構わない。だが、上の空でミッションに臨むのは止めろ」

返答が見つからないのを察したのだろう、手元に視線を移したロックオンは、静かに警告した。
その言葉は優しさからくるものなのか、ガンダムマイスター達の兄貴分としての義理からくるものなのか。
しかしどちらにせよ、彼がマイスターのまとめ役であることに変わりはないし、彼が優しいのもまた事実だ。
そして、その優しさは当然一人だけではなくクルーの皆に向けられている。
その紛れもない事実に妙に落ち込む自分自身がいることにアレルヤは気づいていたが、しかしその理由にはついぞ気づかなかった。








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想定外に18禁になった6月新刊「Nobody.」より抜粋。

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