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優しさの向こう側

※冬新刊。
アレルヤ&キュリオスin人革連パラレルです。










 

「――――――…!」

見慣れない名が、センサーの端に表示されていた。
それまでやることもなくぼんやりとコックピットのシートに凭れていたロックオンは、そのスペルを追うにつれて、顔色を変えていく。

「…キュリオスだと?」

そして、名を理解するなり、シートから跳ね起きて文字をもう一度追いかけた。
文字を目で追うというその作業を三度繰り返してようやく、ロックオンはそれが示す事実を認識する。
GN‐003【キュリオス】。
ロックオンの目が節穴か、あるいはデュナメスのセンサーの故障でなければ、損失機である筈のキュリオスがすぐ近くで起動していることになる。
事実をプトレマイオス側でも確認してもらおうと、ロックオンはすぐにブリッジに連絡を取るべく手を伸ばしたが―――ブリッジ側の方が、一足早かった。

『ロックオン、そちらのセンサーには何か表示されている?』

したり顔のスメラギの顔がディスプレイに映ると、ロックオンは一瞬虚をつかれたような顔になり、それから少し困った風な顔になる。

「――――――故障じゃなければ、キュリオスの反応を拾ってる」

『……そう、やっぱり』

「ミス・スメラギ。これはどういうことか、説明してもらおうか?」

基地らしい地点から飛び立ったと思われるキュリオスの反応が、ゆっくりと荒野―――デュナメスがいる場所だ―――へ近づいていくのを眺めながら、ロックオンは渋面を作り出す。
エージェントの安全確保、という名目でここにいたというのに、件のエージェントが何処にいるだとか、何をしているだとか、そういった情報は一切流れてこなかった。
それなのに、唐突に損失機の反応を広い、それを確認されては、まるで自分がキュリオスの有無の確認に使われたようで、面白くない。
むしろ、事実そうなのだろう。
騙されたような気がしたロックオンは、だからこそ少し不機嫌になっていた。
しかし、だからといって露骨に指揮官にあたるような馬鹿ではないという自負があるために面と向かって文句を言うこともできず、その複雑な心の内がそのまま顔に出てしまっている。
それら全てを理解しているのであろう指揮官―――戦術予報士は、苦笑でもってロックオンの反応を受け止めてみせた。

『エージェントがその街に潜入しているのは本当よ。ただ、貴方の想像したとおり、エージェントの得た情報の真偽を確認する為にデュナメスを利用したという事実は認めるわ』

「……」

『でも、お陰でキュリオスが人革連にあるということが確定したわ。ありがとう』

「…それで?俺はこのまま帰還か?」

多少つっけんどんになってしまった自覚はあったが、己よりも多少年長であるスメラギは、それだけでもこちらの心のうちを読み取ったらしい。
笑みを深めると、「いいえ」と首を振ってみせた。

『エージェントの調査によると、パイロットが正式に決定したらしいの。ただ、名のあるパイロットではないらしくて、データがないのよ』

後に続いたスメラギの指示内容で、ようやくロックオンは今回のエージェントの目的を悟った。
要するに、エージェントは基地内に潜入して、パイロットのパーソナル・データ収集をしているのだ。
パイロットの反応を見ることと、データ収集の間、人革連の気を逸らすこと。
恐らくはそれが、ロックオンに課せられた任務だったのだ。

「…なるほどな。了解だ」

短く答えると、ロックオンはすぐに通信を切って深く息を吐く。
意識を戦闘にシフトさせるための、儀礼的な行動だ。

光学迷彩はそのまま維持。
計器に目立った変調がないのを確認してから、緩やかな傾斜を描く山腹にスナイパーライフルの土台を置き、狙撃体勢に入る。
ロックオンの機体―――GN‐003【デュナメス】は、この「狙撃」という戦闘行動においては、全ガンダム中で最も高い能力を有しているのだ。

『キュリオスセッキン キュリオスセッキン!キョリ ゴセン』

専用の土台に収まっているハロが、耳を模した部分をぱたぱたと動かしながら状況を告げた。
その声を聞き流しつつ、ロックオンはひたすらにセンサー上のキュリオスの動きを追い続けている。
そうすることで、相手をどのタイミングで撃つか、決めるのだ。

(…まるで、動きを確かめてるって感じだな)

動きを見ていると、キュリオスはただあてどなく飛んでいるだけだ。
それに、他の人革連機を伴っていないから、パイロットが正式に決定したという情報が真実なら、パイロットが機体の動作を試すというような意味合いが強いのだろう。
実際、時折曲芸飛行のように激しく上下左右に動いたり、くるりと円を描くように飛行したりするあたりが、まさにテスト飛行の様相を呈していて―――そんな相手を撃ってもいいものかどうか、ロックオンは一瞬だけ躊躇する。
しかし、卑怯だの何だのというのは、社会的立場上テロリストの自分達には無用の言葉だ。
結論に達してすぐに、ロックオンはとっくにエネルギーチャージを終えていたGNスナイパーライフルのトリガーへと指を伸ばす。

「――――――狙い撃つぜ」

低く呟いてから、中指を手前へと引いた。
その瞬間にハロの告げていた距離は、およそ千。
この距離と今の狙撃角度ならば、攻撃に気づいたとしても反応しきれない。
いや、一般的な機体ならばまだ反応できる可能性のある距離なのだが、キュリオスの場合は機動力が高すぎて攻撃に気づく前に至近距離まで接近してしまい、避けきれなくなるのだ。
機体にとって本来利点である筈の能力が逆にあだとなってしまうという、いい例である。
一応、機体が爆散してしまうような危険箇所は外してあるのでパイロットが死ぬことはないが―――機体は間違いなく損傷し、怪我くらいはするだろう。

「……何!?」

が、そんなロックオンの予想は見事に外れ、キュリオスは当たる直前で急に下降した。
その反応速度は、あまりにも常人離れし過ぎている。

「ちッ…!」

舌打ちをし、ロックオンはすぐに光学迷彩を解除した。
狙撃軌道からすぐに相手に所在を掴まれてしまうから、展開している意味がないのだ。
その上、光学迷彩装甲は、展開しているだけでかなりのエネルギーを消費する。
それゆえに、一度攻撃を開始すると、光学迷彩装甲をオフにするのが戦術の基本なのだ。
相手はすぐにこちらを捕捉すると、速度を維持したまま角度を修正し、突っ込んでくる構えをみせる。
はっきりと姿を確認できる距離まで近づいてきたキュリオスは、MA形態だ。

(道理でやけに早かった訳だ)

キュリオスの機動力は、空気抵抗がより少ないMA形態時にこそ、その実力を発揮する。
それを、データとして残っていた予測数値ではなく実体験で知ることとなったロックオンは、苦虫を噛み潰したような顔で笑う。

『キュリオス コウソクセッキンチュウ』

考えている間にも、距離はどんどん縮まっていく。
明確な目標を得たせいもあるだろうが、その速度は先ほどのテスト飛行の比ではない。
どのみち、衝突は避けられそうになかった。
ハロの告げるキュリオスとの距離が五十を切ったところで、ロックオンは狙撃を諦めてライフルから手を離す。
地面へと乱暴に捨てられる形となったスナイパーライフルは、大きな地響きと砂埃を立ててデュナメスの足元へと落下。
その音とほぼ同時に、相手もMA形態からMS形態へと姿を変えていた。
高速移動しながらの変形という芸当を見せた相手パイロットに、ロックオンは正直畏敬の念を抱く。
エージェントの調査が正しいなら、殆ど乗った経験はなかっただろうに、もうキュリオスという機体に馴染み始めている。
それだけ、人革連はいいパイロットを当てたのだ。

「ッ…!」

キュリオスのビームサーベルが振り下ろされる直前で、デュナメスの補助装備であるサーベルがそれを受け止める。
大概において作戦では使われることなく、脚部の付け根に格納されているだけのお飾りだと思っていたその装備をまさか使うことになるとは思いもよらず、内心でロックオンは驚いていた。
剣は使えない訳ではないが、近接戦闘の訓練を積んでいる刹那には勝てず、また、機体の性能上も本分ではない。
切り結んでいる今の体勢がどれだけ維持できるかは、全く分からなかった。

しかし、意外にも相手は数秒間サーベルを交えただけで、すぐに上空へと離脱し、再びMA形態へと戻った。
その変わり身の早さにロックオンが戸惑っていると、あっという間にデュナメスから離れていく。
来たときと変わらぬスピードでぐんぐん距離を離していって、とうとうキュリオスは狙撃可能範囲から外れてしまった。
まだ狙撃できる距離ではあるのだが、障害物の多い場所に行ってしまったのだ。

「…嵐みたいな奴だな」

移動を続けるキュリオスの反応を追いながら、ロックオンは呆然とも唖然ともとれる小さな呟きを漏らす。
しかし、キュリオスはそうならざるを得ないような動きを見せた。
ロックオンの想像以上だったのだ。
殆ど完成していたにも関わらず、テスト直前で損失してしまった為に、キュリオスは動作テストの記録がない。
そのため、ロックオンが知っていたのは、動かした場合に想定される予測数値とシミュレーション映像程度だった。
しかし、そのシミュレーション映像以上の動きを、キュリオスはしていた。

「……面白いじゃないか」

思わず、狙撃手をしていた頃によく使っていた、対象への褒め言葉を呟いていた。
それは、キュリオスに対する賞賛なのか、それとも、キュリオスを駆る相手パイロットへの賞賛なのか。
自分でも分からなかったが、しかしどちらでも良かった。
また、遭遇するときがあるだろう。
その時に考えればいい、と結論づけて、ロックオンは静かにサーベルを元の位置へと戻した。











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とりあえずがんだむ大活躍のロクアレ本です。
今回珍しくちゃんと?ロクアレ描写あります。
えろはないですがロクハレ?ハレロク?描写がちょびっとだけありますのでご注意をば。(notCP)

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