※2/14ハプケット発行ライハレ新刊プレビュー。
本編沿いでえろあり
――――――夜、とはいっても、この艦に昼夜は関係ない。
世界から狙われているソレスタルビーイングの唯一といってもいい戦闘艦であるプトレマイオス2は、どのような時間帯であっても誰かが見張りに立っている。
ブリッジは自動航行モードであっても常に二人程度の人間が詰めているし、格納庫では大概イアン・ヴァスティが作業をしている。
それでも日中に比べれば大分人気の少ない廊下を進んでいくのは、なかなかに新鮮な気分だった。
シミュレータがおいてある格納庫に着くと、そこには先客がいた。
ガンダムのコックピットはそれぞれ僅かにだが仕様が異なっている為、各々専用のシミュレータが用意されている。
仕様の違いはほんの些細なものなのだが―――いつもの仕様と違うコックピットで練習をして、いざという時に間違えるという可能性があるという理由から、予算を割いて四台の専用シミュレータが作られたのだ。
だから、どのシミュレータが使われているかで、相手を推測することができる。
時々マイスターが自機以外の機体を扱うこともあるが、それは本当に時々のことなので、常時はありえない話である。
そして今使われているのがアリオス用のシミュレータだったので、ロックオンはその前提に従いアレルヤがいるのだろうと推測した。
(付き合ってくれるつもりか…?)
僅かに疑問を抱きつつも、どのバーチャル・ミッションを行っているのか気になって、ロックオンは外部端末を操作して近くのディスプレイにアリオスのミッション状況を呼び出す。
「――――――」
それは、昼間と同じミッションだった。
相棒としてセラヴィーを連れたアリオスは、MA形態で防衛ラインに突っ込んでいく。
当然セラヴィーはそのラインを突破すべくGNバズーカⅡを構えるのだが、アリオスはチャージを待たずにその頭上を疾駆する。
当然追いすがる敵機が何機かあったが―――追いつくよりも先にセラヴィーの高圧縮GN粒子による一撃で皆消し炭と化していた。
(おいおい…危なっかしい戦い方だな)
恐らく高速移動をしているせいで細やかな動きができないのだろう、アリオスは殆ど回避行動を行わない。
射撃が上手い何機かの攻撃を翼に受けて僅かにバランスを崩しかけた時などは、ロックオンは自分のことのように冷やりとした。
昼間よりもずっとスピード感があるように感じられるから、恐らくは限界速度に近いのだろう。
シミュレータとはいえ、Gはしっかりとかかるようになっているから―――今の身体的な負担は相当な筈だ。
しかし、それでもアリオスはスピードを緩めなかった。
その速度のまま目標地点に到達したアリオスは、パートナーの到着を待つことなくMS形態に変化し基地破壊にとりかかる。
「……なっ」
そしてここでも、ロックオンは驚いた。
いきなり、なんの変哲もない建物のひとつに、容赦のない弾雨を降らせたのだ。
一体何事かと思ったその瞬間、目標であった建物と、近くにあったいくつかの敵機の出現ポイントが次々と爆発していく。
どうやら、その建物と周辺のポイントが、地下でつながっていたらしい。
ちなみに、アレルヤが真っ先に銃口を向けたそこは、確か宿泊施設のようになっていて―――MSなどの武器類は一切ない、という事前設定だった。
このミッションでは今爆発した箇所が主要な攻撃対象だったのだが、地下から攻撃するとは思いもよらなかった。
最初の攻撃で誘爆を起こしたポイントは殆ど機能しなくなり、僅かに残ったいくつかのポイントを、アリオスはつぶさに攻撃していく。
恐らくは、これが彼の記録の正体なのだろう。
ミッションとしては手早く、そして効率的な戦い方だが―――人道的意味合いでは決して褒められたものではない。
思えば、刹那もティエリアも、そして昼のアレルヤも、無益な破壊行動や被害の拡大を避ける戦い方をしていた。
それを見ていたロックオンも、つい、その戦い方に倣うようになっていたのだが―――軍としての戦い方は、今のアレルヤが最も正しいやり方だ。
しかし、それはあくまで「軍」の戦い方であり、「ソレスタルビーイング」の戦い方ではない。
私設武装組織と自称するソレスタルビーイングが、「ただのテロ組織」ではない事を示す最後の一線のように思えるガンダムマイスター達のこだわりを、今のアレルヤは簡単に踏み越えているように感じられた。
「チッ…アリオスじゃこれが限界か」
毒づきながら、バーチャル・ミッションを終えたアレルヤがシミュレータから出て来る。
しかし、雰囲気が昼間とはまるで違っていた。
金と銀の珍しいオッドアイも、鋭い眼差しも、無造作に整えられた漆黒の髪も、「アレルヤ・ハプティズム」そのものである。
しかし、彼はアレルヤではなかった。
ロックオンの怪訝な眼差しに気がついたアレルヤの姿をした男は、目を合わせた途端、にぃ、と口角を持ち上げてみせる。
「ああ、テメーだな?俺様の記録を超えたいっつー馬鹿は」
「――――――は?」
「アレルヤにそう言ったんだろうが。見ての通り、お前には無理だ」
カツカツと歩み寄りながら、彼は一方的にそう宣言した。
その言葉に憮然としつつも、負けじとロックオンは彼を睨みつける。
「お前と俺は機体だって違うんだ。やってみなきゃ分かんねーだろ」
「はッ!どうだか。素人がでしゃばると怪我するぜェ?ライル・ディランディ」
「…俺の名前は知ってるんだな。お前、アレルヤじゃないな。何処の誰だ」
一瞬、自分達のようにアレルヤが双子だという予想が脳裏を過ぎったが、アレルヤはそんな話を一度もした事がなかった。
それに、もし兄弟だというのなら、最初から彼はこの艦に存在していた筈だ。
ロックオンがこの艦にきてから、彼の姿など一度も見たことがなかったから―――考えられる可能性はアレルヤが多重人格者というものである。
しかし、あまりにも唐突である為に、その可能性に思い至りながらもなかなか信じきることができないでいた。
相手は、そんなロックオンの内心の混乱を汲んでいるのかいないのか、暫く黙って上から下までじろじろとロックオンの姿を観察していた。
やがて観察を終えたのか、彼はふう、とわざとらしいため息をつく。
「――――――顔だけは同じだってのに、随分印象が違うな」
「そっくりそのままお前に返すよ。っていうか、俺はお前のことを何も聞いてないんだ。お前は一体誰なんだ?」
再度尋ねると、意外過ぎるほどあっさりと、彼から「ハレルヤ」という答えが返ってくる。
なるほど、一字違いで同じ意味を示す名をコードネームにするとは、なかなか趣のある男だ。
不遜な態度を取られながらも、ロックオンはその点についてだけは素直に感心した。
「俺のことなんざ、聞けば誰か教えてくれっだろ。それより、てめーの記録見たぜ。なんだあのド下手っぷりは。ティエリアのヤローから教わってんだろーが」
同級生をからかういじめっ子のような口調で、ハレルヤはロックオンを詰る。
元々口は達者な方であるロックオンも、まくしたてるように文句を言われて咄嗟に反論できず黙ってしまった。
「反論もできねぇみたいだなァ?ったく、そんな奴が俺様の記録抜こうなんざ百年早ェんだよ」
「ッこれから練習すりゃ、お前の記録なんかすぐに抜ける!」
「へェ?できるもんならやってみろよ」
売り言葉に買い言葉、というやつが、まさにこれなのだろう。
途端に面白そうにオッドアイを細めたハレルヤの声を聞いてから、ようやく「しまった」という感情が頭を支配したが、今更宣言したことを取り消せる筈もない。
そうして、ロックオンの特訓はこの日を境により一層厳しくなっていった。
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時間軸はまだケルディムに慣れていない頃です。
少女漫画っつーか…ラストまでやってはいないですが、18禁
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