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※オーバーロード・スナイパー/オーバーライド・スナイパーの後日談本。
HARU新刊です。
――――――ここにいるクルー達は、殆どの者がニールを知っているのだという。
ある人は目を潤ませ、ある人は「生きてやがったか」と痛いくらいに肩を叩き、ある人はただいつも通りに笑いかけた。
感覚的に、ここが「ホーム」なのだという気がしたが、それでも戻らない記憶に我ながら苛立つ。
皆、過去のやりとりだとか、会話だとか、そういったエピソードを聞かせてくれたのだが…いずれも、ニールの記憶には響かなかったのだ。
少しばかり落胆した様子の皆に申し訳なくて、嘘でも記憶が戻ったと言いたくなることもあったが、それで何かが解決する訳ではない。
彼らと和やかに談笑しつつも、ニールは戻ってからずっとそんな事ばかりを考えていた。
食堂に着くまでにも、色々な人に話しかけられた。
特に面白かったのは、イアンの娘だというミレイナ・ヴァスティだ。
四年前は面識がなかったせいか、彼女は物怖じすることなくずかずかとニールの目の前まで来て観察した後、「本当に同じ顔ですぅ!」と至極当たり前の感想を洩らしていた。
そりゃ双子だから当然だ、と返そうかと思ったが、女性相手に突き放したような物言いは良くないだろうと思い直し、紳士的に微笑むだけに留めた。
「―――――ア」
食堂に足を踏み入れてすぐ、ニールは目当ての人物を見つけて声を上げようとした。
しかし、そのすぐ傍にあった姿に驚いて、出かかった声がつっかえてしまう。
(……ライル)
アレルヤと談笑していたのは、弟のライルだった。
一人で手持ち無沙汰にしていたアレルヤに声をかけたのだろう、何気ない話題なのかもしれないが、二人はやけに盛り上がっているようにみえた。
しかし、それにしてもライルは自分に話しかける時とはまるで違う印象である。
アレルヤが何か言う度に、子供っぽく不機嫌そうな顔になったりいきなり笑ったり、表情が目まぐるしく変わって面白い。
かと思えば、年齢相応に大人の表情で語っていたりもする。
あくまで何となくだが、仲間同士というよりは、気の置けない友達同士のような独特の雰囲気が二人の間にはある気がした。
(まあ、ずっと一緒にいたんだしな…あれくらいは)
決して長い時間ではないが、ライルとアレルヤは一緒に戦ってきた。
その過程であのように打ち解けられたという事なのだろう、という予想は容易にできる。
良好な関係を築くことはいついかなる場面でも重要なことだし、それができるのは素晴らしいことだ。
が、しかし。
(ちょーっと…近すぎやしないか?)
アレルヤに警戒心がなさ過ぎるだけなのか、そもそも彼らにとってはあれが当たり前の距離なのか。
真偽のほどは分からないが…少し顔を近づけたら唇に到達してしまいそうな近さで話しているのはいただけない。
そう思った頃には、ニールの足は二人のもとへと向かっていた。
「アレルヤ!待たせたな」
弾かれたように振り向いたアレルヤが「ロックオン」と声をかけるよりも一瞬早く、ニールは彼を自らの傍へと引き寄せていた。
目を丸くして自分の肩に回っているニールの腕と表情とを見比べているアレルヤに気付かないフリをしつつ、ニールはライルを一瞥する。
弟が嫌いな訳ではなく、むしろ唯一の家族だから親愛以上の思いだってあるのだが―――今は何故か苛立っていた。
思いがけない形で兄が登場した事にライルは少なからず驚いたようだったが、すぐに気を取り直すと何処か余所余所しい笑みをニールへと向ける。
「よお、兄さん」
先ほどアレルヤに対して浮かべていた笑みとは、まるで性質が違う。
なんと表現したらいいのか分からないが、少なくとも好意ではないことは確かだ。
アレルヤからは手を離さないまま、ニールは少し考え込む。
(…俺、何かしたか?)
たとえば、過去。
ニールが覚えていない過去の記憶の中で、彼に避けられてしまうような事をしでかしてしまったのだろうか。
「なあ、ライル――――――」
「あ、悪い。俺刹那に用事あるんだ。またな」
ニールからさりげなく視線を逸らし、アレルヤにだけ微笑みかけると、ライルは兄の呼び止める声も聞かずに食堂を出て行ってしまった。
あまりにも唐突だったので、思わずニールとアレルヤは顔を見合わせる。
アレルヤはその距離の近さにひどく戸惑ったのだが、考え事に夢中らしいニールは、その当惑には気づいていない。
どうにか気付いてもらおうと、決して小さくはない体をもぞもぞと動かしてみたのだが、一度集中すると中々戻ってこないらしい彼は一向に気付かなかった。
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こんなんです。
想像以上に兄さんが子供っぽくなってしまったので、見守るっつーより張り合う話になりました(笑
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