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医者によりしっかりと包帯が巻かれた手では、どう頑張っても銃は握れそうにない。
治療を終えた手を見つめながら、ニールは重いため息を吐いた。
途端、開いたドアからその怪我の原因である影武者の男が顔を覗かせ、ニールは僅かに驚いた。
「あ、えっと…隣にお茶の用意をしましたので、どうぞ」
しどろもどろになりながら、男―――城主曰く、アレルヤというらしい―――は、扉を開けてニールを促す。
対峙した時の、あの堂々とした態度は何処へ行ったのだろう…今の彼は思春期の少年のように視線をさまよわせ、落ち着きがない。
なまじ外見が立派なものだから、そのギャップは余計際立って見え、ニールはそのちぐはぐな印象に思わず笑ってしまった。
「お前さん、いつもそうなのか?」
「え?」
「最初と随分印象が違う」
指摘すると、アレルヤがみるみるうちに赤くなっていく。
別に変なことを言った訳でもないのに、こちらの方が動揺してしまう。
「その、僕…ハレルヤ以外とはあまり話をしたことがなくて。変なところがあったらすいません」
おろおろと銀の瞳を彷徨わせながら、アレルヤはようやくそれだけを答えた。
「俺達みたいに一緒に国を治めていたんじゃないのか」
「いえ。僕はそういうのには向いてないから…ハレルヤの手助けをしているだけです」
どうぞ、と薦められたソファに腰掛けるとすぐに用意された茶と茶菓子の香りに食欲をそそられながらも、ニールは僅かに混乱する頭をなだめ、情報整理をしていた。
北方を中心に広く領土を拡大し続けるハレルヤ・ハプティズムは、容赦の無い戦い方をする男である。
それだけ人の恨みも買っている筈だから、アレルヤのような瓜二つの影武者を用意することは極自然な流れのように思えた。
しかし、双子だというこのアレルヤを見る限り、アレルヤには凶暴な部分は殆どないようである。
同じ一卵性双生児であれば、性格においても似通った部分が出てくるし、芯の部分というのはほぼ同じであることが多い。
だとすれば、ハレルヤは噂通りの人物ではない可能性もあるのだ。
思い至った可能性に自分で驚いていると、ふとアレルヤが気遣わしげにこちらを見ていることに気がついた。
その視線は、ニールの右手に注がれている。
「これか?心配しなさんな、骨には異常ないって」
「――――――すいませんでした。咄嗟のことだったので、手加減ができなかった」
労わるようにそっと包帯の上から撫でられて、ニールはつい肌があわ立つのを感じた。
嫌悪感ではないのだが、妙に落ち着かない。
別の意味で混乱し始めたちょうどそのとき、ノックもなしに部屋の扉が開いた。
「邪魔するぜ」
現れたのは、ハレルヤだった。
初見の時もそうだったが、服装は簡素でとてもじゃないが広い領土を治める大国主とは思えない。
ただ、油断のならない男だと思わせるだけの戦士としての雰囲気は確かだったから、ニールは緊張を解かずに彼を見つめた。
「捕虜扱いはしてねェだろーが。睨むなって」
「ハレルヤ、急にどうしたんだい?」
「…あぁ、そこの馬鹿に『お迎え』が来たんだよ」
言葉と同時に現れたのは、ニールと全く同じ顔をした男―――ライルだった。
ハレルヤの後ろから急に現れた彼は、怒気を含んだ顔で己の兄を見つけるなり、どかどかと室内に入ってくる。
「兄さん!あんたはまた感情で突っ走って!!俺に無断で行動するのやめてくれっていつも言ってるだろ!!?」
「うっ…悪かったって思ってるよ!でもわざわざここまで来ることないだろ」
「用事でこっち側に来てたんだよ!したら、途中で兄さんの話聞いてあわてて切り上げてきたの!!」
ニールに感情的になるなと叱り付ける彼もまた、激しやすい性格だった。
今の己の行動がいわゆる感情的になっているが故のものだと気付いていないあたりが、彼らしい。
こうなると手がつけられないことを理解していたニールは、ただ彼の説教を黙って聴いていたのだが、さすがにそれが五分を超えると相手方も焦れてきたようだ。
双子のどちらに制止の声をかけたらいいのか迷っているようだったアレルヤを制して前に出たハレルヤが、わざとらしく声をかけたことで、ようやくディランディ兄弟の説教タイムは終了した。
「うっせーんだよ、てめェら!ヒトの城だって自覚してんのか」
「………すいません」
素直に頭をたれると、一応腹の虫が収まったのか、ハレルヤも怒気を収めて話をする体勢に入る。
いやにかしこまったその態度に、ニールはふと違和感を感じた。
「そのうち話をしにいこうと思ってたんだ。ちょうどいいから今話す」
まず座れ、と言われて、皆がソファに落ち着いた所でハレルヤが口を開く。
「俺はあんた達と同盟を結びたい。相互不可侵のな」
「……俺達には願っても無い話だが、突飛な話だな。俺達の国には何もないのに、同盟を結ぶ理由が分からない」
客観的に見た自国の評価を口にして遠まわしに不可解だとニールが告げると、ハレルヤが笑ったような気がした。
「俺らの国には無いものがある。信用できないなら、アレルヤを寄越してもいい」
「ちょっと、ハレルヤ!?」
「――――――断ればどうなる?」
「別に?どうもしねェ。お前らはずっとあらゆる方位からの襲撃に怯えながら自衛を続けるだけだろ」
その答えに、益々二人は混乱してきた。
何も利益がない同盟を、この男がする筈がない。島にほしいものがあるなら、力ずくの方が手っ取り早い筈だ。
だというのに、恐らく唯一であろう兄弟を差し出すとは、一体どういう了見なのだろう。
ライルがぐるぐると考え込んでいると、少し早くその意図に気付いたのか、ニールが深いため息を吐いたのが聞こえた。
「…分かったよ。同盟を受け入れよう」
いきなりの兄の返答に、ライルは面食らった。
しかし一瞬こちらに向いた視線は任せろといわんばかりに自信に満ちていたので何も言えず、蚊帳の外のアレルヤ共々黙り込むしかない。
確かに、今の段階ではハレルヤは信用してもいい男だと思える。
態度こそああだが、まだ敵対関係にはないから、と、わざわざ兄のことを知らせてきたくらいには誠実だし、戦のやり方も今どき珍しいくらいに様式を重んじる。
話に聞いただけだが、彼の噂は聞いていて胸のすくような話が多いのだ。
しかし、それとコレとは別問題。
別問題だというのに――――――気がつけば話は終盤に近づいていた。
「んじゃ、準備が整ったらアレルヤをそっちに寄越す。それでいいな?」
ニールとの話し合いで大体を決めてしまったらしいハレルヤのその一言で、どうやら大国と小さな島国との同盟は正式に締結されてしまったらしかった。
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とりあえず保存。原稿に戻ろう
続き楽しみにしてるって言ってくださった女神様がいらっしゃったので頑張ってみた!
(コメがあまりなかったのでとってもうれしかったですv ありがとうございました~!)
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