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※冬の新刊。上下巻の下巻です。
『―――――っ!』
アレルヤ、という鋭い呼びかけで、遠のきかけていた意識は何とか現実に戻ってくることができた。
朦朧とする頭を何とか回転させて外部映像を見れば、アリオスに新型と思しき機体の電磁鞭が絡み付いている。
…なるほど、頭がはっきりとしていないのは、アリオスを捕らえている鞭からくる電撃のせいらしい。
機動力を最大の武器とするこのGN‐007【アリオス】は、中々攻撃を当てることができず敵は苦心することの多いガンダムだが、こうして一度捕らわれてしまうと脆いという弱点があった。
決して装甲は薄くないのが、可変フレーム構造であるせいもあって、特定部分は攻撃に対する脆弱性を有している。
焼き切ってやる、と叫ぶロックオンの作業がうまくいくように、アレルヤは震えながらもなんとかアリオスの腕を思い切り突っ張り、機体と鞭との間に空間を作ることに成功した。
空間ができるのを待っていたかのようなタイミングで、細い鞭をめがけて光条が迸り、新型機の武装のひとつ―――エグナー・ウィップは爆散する。
武器を失ったことに僅かに狼狽する間を逃さず、アレルヤが即座にビームサーベルでもって新型の一機を両断。
まだ砲火は止む気配を見せないが、ひとまずこれで近くの脅威は消えたことになる。
『大丈夫か?』
「…、うん」
『俺はここから動けない。これ以上の援護は期待するなよ』
分かってると思うが、とつけたしながら、ロックオンは尚も防戦を続ける。
彼―――GN‐006【ケルディム】の配置は岩の上で、まさに狙ってくださいといわんばかりの場所だ。
しかし彼はその状況を「見晴らしが良くて逆に好都合」と笑い飛ばし、次々とやってくる敵機を確実に沈め続けている。
補助AIのハロも善戦しているようで、GNシールドビットの動作状況を律儀に報告しているのが聞こえてきた。
今回の作戦はあってなきようなもので、スメラギから言い渡された内容も「トレミーが離脱するまでの間、敵を食い止めておいて」という簡素なものだった。
それはすなわち、まともに戦闘をすることなく、ただ逃げる為の時間を稼いでくれというだけの話である。
要するに防戦と同義なのだが、それについてアレルヤもロックオンも、忸怩たる思いがないわけではなかった。
しかし、ここで彼らとまともに戦端を開いたところで、一体何になるというのだろう。
ただ闇雲に戦っても、数の上で圧倒的に不利といえるソレスタルビーイングに勝ち目はないのだ。
難しいことはよく分からないが、とにかく今は戦うべきではない。
皆それが分かっていたからこそ、スメラギの決定に文句をつけることなく従っているのだ。
それは、アレルヤも同じことだった。
とにかく、今は戦術予報士が望むとおりの時間を作らなくてはならない。
「あと五分―――何としてでも稼ぎ出してみせるよ」
余裕のないこの状況で意味がないと分かっていながら、茶化すようにウインクをして、アレルヤは通信を切った。
殆ど無意識的、あるいは反射的、儀礼的行動に過ぎなかったが…それは偶然にも、かつてのロックオン・ストラトス―――ニールが、緊張しきっているガンダムマイスターたちに対してとった行動と全く同じであった。
そしてそれはやはり、場の空気を僅かながらに変える効果がもたらされる。
「…あの野郎ッ、!」
自分がしたわけでもないのに、やけに気恥ずかしくなってきたロックオンは、憎憎しげに吐き捨てると自棄を起こしたかのように闇雲な連続射撃をした。
しかしそれはあくまで自棄になったように見えただけで、彼の放った攻撃は一つ残らず敵機へと吸い込まれていく。
そしてややあって、それまで己を支配していた妙に息苦しい気持ちがすっかりと消えている事に気がついた。
あの気障ったらしい上にらしくもないアレルヤのウインクは、もしかすると劣勢にある己を和ませようと思っての行動だったのかもしれない。
ロックオンがその事実にようやく気づいたその時には、既にアリオスは最大加速でもってセラヴィーの救援に向かったのだろう、モニタ可視範囲から消えていた。
(――――やっぱり、苦しいな)
ロックオンが行っているのはあくまで狙撃である。
確実に敵機を落とすことができるが、その代わり一度に沢山の敵を凪ぐというような戦況を大きくひっくり返すような戦闘はできない。
その役割は本来刹那・F・セイエイの駆るGN‐0000【ダブルオー】の役割なのだが、彼は偶然に偶然が重なり、未だ合流できないままでいた。
大口径の「GNバズーカⅡ」を搭載するGN‐008【セラヴィー】も、その破壊力の大きさから戦況をひっくり返すことができる機体のひとつではあるのだが、彼はまだ、少し離れた所で敵機の新型に足止めを食らっていた。
「ティエリア!」
アレルヤが声をかけると、僅かにだがくぐもった声がそれに応答する。
セラヴィーはアリオスと同じく電磁鞭に捕われていて、やはり電撃を食らっているようだった。
アリオスはMA形態のままエグナー・ウィップを用いている新型へと突っ込んでいく。
搭載されたGNバルカンでもってアーム部に集中砲火を浴びせると、セラヴィーを捕らえていた鞭ごとアームは鉄屑になった。
『―――――助かった』
「エネルギー・チャージは?」
『およそ半分、といった所だな。敵を退けるだけでいいなら、〇〇一〇で可能だ』
弾幕を張りながら問いかけてきたアレルヤに、ティエリアが端的に答える。
会話をしている間も、彼の指先はせわしなくコンソールの上を滑り続けていた。
『ケルディムもそう長くは持たないだろう。一撃を浴びせたら一気に退却だ』
「了解」
ティエリアの言葉に短く応じながら、アレルヤは僅かに離れた位置で尚も狙撃を続けるケルディムを見やった。
前身であるGN‐003【デュナメス】の武装…フルシールドを基に考案されたGNシールドビットは、自律的に動く「砲座」であり「盾」でもある。
勿論コントロールをハロが行ってはいるが、マイスターであるロックオンの操作ではない時点で、彼が狙撃に集中できる状況をより多く作り出してくれているのは事実だ。
しかし、だからといって鉄壁の防御に守られ安心して狙撃ができるという訳ではない。
当然大熱量の砲撃には耐えられないし、攻撃を受け続ければ、やがて壊れてしまう。
消耗戦や長期戦には向いていない武装なのだ。
現に、九基ある筈のビットは既にひとつ失われている。
「!」
急に何かを察したように顔を上げたアレルヤは、マシンガンによる攻撃の手を一時止めてその場から僅かに動いた。
途端、己のいた場所をビームライフルらしい光が通り過ぎていく。
やけにしつこい攻撃だ、と思っていたら、どうやらこの攻撃の為に足止めをされていたらしい。
正確にアリオスのコックピットを狙ってきていたその攻撃に、アレルヤは内心舌を巻いた。
(…敵にも狙撃手がいるんだ)
どこからの攻撃かは遠すぎて確認できないが、その正確性はロックオンを思い出させた。
その「ロックオン」とは今のロックオンと、そしてアレルヤの兄貴分であったロックオン、両方である。
「―――――」
そして、殆ど間をおかずして、ケルディムにも攻撃の手が向かっている。
シールドビットが守ってくれる―――そう分かっていた筈なのに、何故かアレルヤは焦燥感を抑え切れなかった。
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スパーク新刊「オーバーロード・スナイパー」の続き(下巻)です。
ロックオン生存ルート。
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