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※初代の出会い完全捏造。
もし本家本元でもっと出番(というか会話とか)あって著しく違ってたら消去予定
――――――あらゆる木々の葉が落ち始めるこの季節は、あまり好きではない。
屋敷の周りをぐるりと囲むように生える桜だって沢山の葉を落として道を汚すし、何より目に見えて気温が下がっていくのが何より嫌だった。
特に朝利の屋敷は古い様式を頑なに守り続けている為に、夏こそ過ごしやすいものの、冬場はどんなに締め切っても冷気を完全には遮断できない。
音色を決める指先も冷えて上手く動かなくなるから、演奏することさえままならないのだ。
(…ああ、もう冬が来る)
葉の数も僅かとなった街路樹を塀越しに眺めながら、雨月は小さくため息を吐く。
奏者としての高い技術ゆえに各地で演奏をして回っている彼にとって、これからの季節は何より憂鬱なものである。
演奏に重要な指先は冷える、演奏しに行くにあたっての交通手段は絶たれる。
そして何より「実家の家業」が、雨月の足を止めてしまうのだ。
いつも季節を問わずに声がかかるのだが―――演奏会が少なくなるこの季節、断る理由がなくなる雨月は、家業を手伝わざるを得なくなる。
もちろん、生まれ育った家が代々続けてきた仕事だ―――その重要さを教えられてきているから、家業を嫌だと思ったことはない。
ただ単に、優先順位の最上位が音楽であるというだけの事なのだ。
「どうしても俺が行かなきゃいけないのか?」
「はい。何せ、場所が場所ですから―――相応の者が行かなければ」
部下の報告を聞きながら、雨月は脱ぎかけだった舞台衣装の襟元を正した。
いちいち着替えていたら恐らく間に合わない。
ある程度草臥れてしまうだろうが、もうこればかりは仕方のないことだ。
潔く諦めると、衣装のまま出かける準備をすべく自室から飛び出していく。
文明開化により洋装が定着し始めている最近では、今雨月が着ているような純和装は、逆に浮いて見える。
雨月も、今では演奏会でもなければこのような格好をしなくなった。
特に好きでも嫌いでもない服装だが、動きやすさという点では洋装の方が好ましい。
ただ、この朝利の屋敷では和装の者の方がまだ多かった。
恐らくは、古くからこの地域一帯を管理してきた家の者としての誇りが、海外文化の取り入れを拒否しているのだろう。
「お前達は先に行ってまわりを固めておいてくれ」
「へい、若頭」という威勢のいい声が背後から一斉に聞こえてきて、次々と雨月の横を過ぎていく。
雨月は、この朝利の―――極道「朝利組」の若君なのだ。
人の足が鈍っていくこの時期、不貞の輩も土地に定着しやすい。
詳細は聞いていないが、町の中心に妙な連中が集まっているという話のようだ。
人数も聞いたところではそれほど多くないようだし自分が出るほどでもないと思うのだが、面子というものを重視する風潮からか、雨月にその役目を負わせたいらしい。
指先が鈍ってしまわないよう、今日は部屋でずっと練習をしていたかったのに。
顔には出さないようにしながら、雨月は胸の内側でこっそりと文句を垂れつつ屋敷の門戸をくぐり出ていった。
■ ■
町の中心といってもいい場所で暴れていた者は、雨月の姿を見た途端呆けたように足を止めた。
それもそうだろう。
建物はともかく、人々の雰囲気は洋風化が進んでいる昨今、まるで千年前に立ち戻ったかのような時代錯誤の衣装を着た男が立ちふさがれば、何事かと足を止めたくなるというもの。
しかし、呆けているからといって容赦をしてやるような優しさを持ち合わせているわけではない雨月は、部下の一人から借りておいた刀に手をかけながら、にっと笑いかけてやった。
「――――――この朝利の管轄下で暴れるとは、いい度胸だ」
ここ最近は、ここまで規模の大きな諍いは起きていなかった。
血の気の多い若い衆などは物足りなさそうな顔をしていたけれど、音楽に集中できたから雨月は充実した日々を送っていた。
その日々が崩れてしまうのは少し勿体無い気もするのだが、こうして刀を片手に暴れることも、嫌いではない。
僅かに口角が上がっていくのを感じながら、雨月は半歩踏み出した。
と。
「違う!俺達はあの異人に喧嘩を吹っかけられただけだ!」
情けない声を上げながら、男が一人唐突に飛び出してくる。
額から血が流れているあたり、恐らくは喧嘩の只中にいたのだろう。
その男に気を取られていると、男のすぐ後ろで複数人が一気に吹っ飛ばされるのが見えて、雨月は咄嗟に男を脇に投げると構えを取った。
放り投げた男の言っていた「異人」が一人なのか複数なのか、それ次第では周囲の整理に割いている部下達をここに呼び戻さなければいけなくなる。
脳裏でそんな事を考えていたら、周囲に群がっていた連中の悉くが、紙か何かのように簡単に飛んでいってしまった。
「…おいおい、一体どれだけの怪力なんだよ」
倒れた男達の間を縫うようにして現れた件の異人の姿に、雨月は思わず本音を洩らしていた。
その身長はほぼ雨月と同じ程度で、髪は異人特有の色素の薄い髪をしている。
好き勝手な方向にはねた前髪の隙間から見えるのは、意思の強そうな鋭い眼差しだ。
現れたタイミングと位置からして、男達を飛ばしたのは十中八九彼なのだろうが―――手に武器はなく、腕っ節も強そうには見えない。
彼は刀を構えている雨月へとゆっくり視線を合わせると、小さく首を振って見せた。
「そこの男の言う事は間違いだ。俺は喧嘩をしていたわけではない」
「では、この大騒動の原因は何だ?」
いきなり日本語を喋り始めた異人に驚きながらも、雨月は動じずに言葉を返した。
しかし雨月の質問が理解できたのかできなかったのか、異人は黙り込んで少し考えるような素振りをみせる。
「……それが、分からない」
「?」
「俺は、歩いていて転びそうになっただけだ。だが、それから周りに人間が集まってきて、何故か俺に武器を向けた」
至極真剣な顔で、異人は訳の分からないことを言い始めた。
周囲に残っていた男達に事情を聞こうにも、皆失神してしまったか逃げてしまっていて話など聞けそうにない。
(…こいつらを片付けたら、とりあえず場は開ける。まあ、いいか?)
彼らが集まっていて問題なのは、往来の邪魔になっているという事だけである。
つまり、喧嘩の原因が何であれ、この倒れている人間の山を何処かに避けてしまえば、その問題は解決するのだ。
元々考え込むことが好きではない雨月は、あっさり原因追及を放棄して、近くに待機していた部下に倒れている人間たちを避けるようにと指示を出した。
異人の方は―――一応、少し話を聞いておいた方がいいだろうか。
「場所を変えて、もう少し詳しい話を聞かせてくれるか?」
抵抗されるかと思いきや、異人はあっさりと了承したので、雨月は何となく肩透かしを食らったような気分になった。
やましいものがあれば、人間というのは詳しい話を話すのを嫌がるものである。
とすると、彼には本当に非はないのかもしれない。
「こっちだ」
くるりと踵を返して案内を始めようとしたら、視界の端で何かに躓く異人の姿が目に入った。
転ぶ、と思ったその瞬間、何か小さなものが飛んできて、雨月は殆ど反射的に腕で防御する。
「……ッ」
小指の付け根で受けてしまったその「小さなもの」は、小石だった。
中々に角が鋭いものだったらしく、付け根からは血が滲んでしまっている。
その指先の向こうでは、先ほどの威風堂々とした姿からは想像もつかない、無様に顔から転んだ異人の姿。
額を割っていた男は、もしかすると彼がこうして転んだ拍子に飛ばした小石で怪我をしたのかもしれない。
「…転んだだけで喧嘩を呼んだというのも、あながち嘘でもないみたいだな」
起き上がるのを助けるべきか、起き上がるまで放置すべきかを考えながら、雨月はぽつりと小さく呟いた。
*****
校正したいけど力尽きた
プリ雨出会い編
続く予感
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