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現代パロ
※ロックオンの職業判明的な
同僚たちへ挨拶をしながら、ロックオンはここ数日でようやく馴染み始めたフロアへと足を踏み入れた。
フロア内はその広さの割に人数はおらず、その代わりのように大量の端末と紙の資料、何が入っているのか分からない段ボール箱などが雑然と置かれている。
窓が小さめに作られていることもあり、部屋の中は薄暗くらく、どことなく穴ぐらのような雰囲気を感じさせた。
この課は主にサポート人員で構成されており、捜査人員は極端に少ない。
実際に動く捜査官が効率的に、また相手に対して優位に動けるようにするためだ。
そのため、一般的な捜査課の人員構成とは逆の構成となっている。
ただ、それでも殉職者は少なくとも毎年一人以上はいて、それが他課の嘲笑の要因となっている。
しかし、課を取りまとめているロックオンの上司はこの方針を変えない。
確実な情報を多量に持っていなかったら、殉職者数はいまよりもっと増えることをよく分かっているからだ。
この課―――特別犯罪捜査課は、それだけ危険な事件を取り扱う課なのだ。
時には国家機密に関わるような仕事もある為、正確な人員数はロックオンにも分からないという、警察組織内でも特殊な位置にある部署である。
その課における数少ない捜査官、それがロックオン・ストラトスことニール・ディランディの肩書きだった。
ただし、公的にはこの課の名前自体存在していない為、ロックオンを含めた課の人間は全員一般保安官として登録されている。
「お、どうだ?噂だとアレルヤの方といい仲になってるそうだが」
殆どここにいることがない為にすっきりと片づいている机にたどり着くと、途端に少し離れたところから揶揄するような声が聞こえてきた。
「・・・どこで仕入れてくるんだよそんな情報」
「そりゃ、情報収集が仕事の俺にとっては死ねといわれているようなもんだ」
悪びれもせずソースは秘密だと返されては、ロックオンもそれ以上言及のしようがない。
それに、彼のどこから集めてきているのか分からない情報の多くは、仕事の役にも立っている。
ロックオンとて、彼の情報があったからこそ、こうしてこの街へと戻ってきたのだから。
「・・・ただのカモフラージュだ。そんなことより、そっちはどうなんだ」
「うーん、一応、目星はついたんだが」
彼にしては珍しくもったいぶる言い方で、ロックオンは少し苛立った。
弟の身辺調査などは実際のところ急ぐようなものではなく、本来の任務に必要な情報を彼に集めるよう要請していたのだ。
「・・・スラムだよ。北のはずれのな」
「スラムくらいなんだっていうんだよ」
「お前、この街出身なのに本当に何も知らないんだなあ。北のスラムは特に危ないんだよ。スラム内でもそこそこにまともな奴なら基本的に南に住んでるくらいだ・・・っていえばどれだけやばいか分かるだろう」
お前のアレルヤも南に住んでるだろう、ついでのようにいわれ、ロックオンは意味もなくどきりとした。
しかし彼はそれに気づくことなく、ため息混じりに話を続けた。
「"あいつ"は北スラムで何か捜し物をしてるみたいだ。一週間くらいいるらしい」
「それだけ分かれば十分だ。悪いな」
「お前が焦る気持ちも分かるからな。ま、死なない程度に頑張れよ」
大まかでも所在が分かれば十分だ。
来て早々すぐにきびすを返したロックオンの背を、同僚は複雑な面もちで見送った。
北エリアは、一般エリア内だと工場地帯、スラムエリアだと商業地域になっている。
工場地帯の周囲は植樹によってできた小規模の林があり、そこの北側を越えるとスラムの街、という構成だ。
街の最もはずれにあるといってもいい北のスラム街は、情報官が言った通り、スラムの人間の中でも特にアンダーグラウンドな立場の人間が出入りする。
とはいえ、基本的にスラムの人間は存在そのものがアンダーグラウンドであり、大半がまともな仕事に就いていない。
普通の仕事をしているアレルヤの方が実は特殊なのだ。
また、学生をしているという弟の方も、かなり特殊な部類に入る。
なぜ、彼らは卑屈にならずにああしてひたむきに生きられるのだろう。
どれだけ考えても、ロックオンには分からない。
「・・・、言われるだけのことはあるな」
街を一目見るなり、思わずロックオンはつぶやいた。
公的には工業地帯が街の終端ということになっている関係でまったく整備されていない道を進んでいくと、地図の上では荒野となっている筈の場所に突如街が現れる。
街そのものは多少くたびれている感があるものの、一見普通の街だ。
しかし、立ちこめる異様な空気と時折見かける明らかにまともではなさそうな住民の姿が、普通、という言葉を押し込めてしまう。
(とりあえず、人が集まりそうな場所を探すとしようか・・・)
街の構造というのは、同じ人間が作る以上構造が似通っているものである。
大ざっぱにあたりをつけて歩いていると、案の定、人が集まる食堂だとか酒場が集まる地域にたどりついた。
時間的にも早く酒場が開いていなかったので、ロックオンは近くの食堂へと入る。
文化が妙な具合に混合しているらしく、食事の系統と店の雰囲気が合っていない。
しかし店自体は繁盛しているようで、昼もだいぶん過ぎた今でも、そこそこに客が入っていた。
「――――――聞いたかい?例の」
(!)
噂話をしそうな二人組の男の真後ろの席に座ると、早速彼らの話が耳に飛び込んできた。
大概が聞いていて気持ちが良いとは言い難い内容の話だったが、そのうちの一部にロックオンは注意深く耳を傾ける。
「ああ、なんでも「お目当て」があるらしいな」
「なんだ、新しい武器か?」
「違う違う。人間だよ、人間。捜せばここにはいくらでも使い捨てられる奴がいるからな」
(・・・ここまでは情報通りだな)
ロックオンが知りたいのは、その「先」だった。
「奴」が人間を探している。
それは将来のロックオンたちの敵という訳だ。
ロックオンは、場合によってはその人間を殺すことさえいとわない、とも思っていた。
「そういえば、腹心に裏切られたって話だが、もしかしてその代わりかい」
「いやあ、俺にも分からないな。捨て駒探しならこの辺りで済ますだろうが―――本気で右腕探しをしてるんなら、ここじゃ物足りないかもしれないしな」
冷めた茶をすすりながら、男は締めくくる。
「なんにせよ、話によると単身乗り込んできてるっていうから、このタイミングで襲撃されちゃあひとたまりもないだろうなあ」
(・・・違いない)
最後の台詞にこっそりと同意しながら、ロックオンは店を出ていく二人を見送り、間をおいて自らも店を出た。
ロックオンは、しばらくは歩きなれた道であるかのように適当に歩き回っていたが、さすがに道が分からなくなってきた。
右に曲がったと思ったらむき出しのコードの束が道ばたでうねる、何を売っているのか分からない商店街のような場所に出たり、それなら左へ、と曲がってみたら、普通ならありえない、ほとんど窓しかなく耐久性に問題があるとしか思えない用途不明の建物の横を通り過ぎるはめになってしまったり。
そうしているうちに、いよいよもって帰り道すら怪しくなってきてしまった。
無理に奥までくるんじゃなかった、と後悔し始めた頃、急に目の前が開けてくる。
狭く薄暗い路地をようやく抜けられたか、と喜びかけたロックオンだったが、それがぬか喜びであったことにすぐに気づいた。
「・・・これは・・・中庭みたいなもの、か?」
上を見上げると、コードやら洗濯物やらの隙間から空が見えたのだが、周囲はすべて建物で埋まっている。
そして振り返ってみて初めて、薄暗い商店街の通りだと思っていた道が建物内を突き破る形で作られたものであったということが分かった。
すぐ横に目を向ければ、ロックオンの頭ひとつ分ほど上に二階の窓らしきものが無数にあり、高さの規定や強度なども無視されている建物であることも同時に見て取れた。
役所の人間が見たなら卒倒しそうな光景だが、ロックオンはあくまで捜査官だ。
見て見ぬふりをすることにして、とりあえず進むことにした。
「――――――」
ここには、幾人かの露店商がいた。
広場のはじの方では、若者同士が取っ組み合いの喧嘩をしているが、日常茶飯事なのか、誰も気にしている様子はない。
手前にいる露店の男などは、普通にやってきた客と商品のやりとりをしている始末だ。
大きめの袋を客に渡しているが、品物は一体なんだろうか――――――。
「あ」
ふとなにげなく客の顔を確認して、ロックオンは思わず声をあげてしまった。
「・・・ロックオン!?」
視線を感じたのか、振り向いてロックオンを見やった客も声をあげる。
肩口まで伸びた黒髪に、銀の左目。
ラフな服装をしているせいか場に馴染みきっているその客は、アレルヤだった。
コードネームを呼んだあたり、彼も場というものをわきまえているようだ。
露店商に別れを告げてから、アレルヤは足早にロックオンの元へとやってくる。
「・・・こんなところでどうしたんです?」
「そりゃこっちの台詞だ。お前さん、家は南の方だろう」
「そうですけど、ここへは買い物に来るんです。」
「こんな危ないところにか?」
「・・・・・・お気に入りのコーヒー豆が、ここでしか手に入らないんですよ」
少しばかり後ろめたかったのだろう、言いにくそうにしながら、アレルヤは小さな声でそう弁明した。
そのすねた子供のような様子に、思わずロックオンはぎゅうっと抱きしめたい衝動にかられたが―――場所と建前もあったので懇親の精神力で我慢する。
「だからってこんな奥まで来るなんて・・・お前さんの弟がよく許可したな」
最近知った情報―――弟のハレルヤも兄のアレルヤも互いにブラコン傾向にある―――をふと思い出してからかうと、あからさまにアレルヤの顔色が変わった。
「・・・ハレルヤには内緒にしてます」
「おいおい」
「大丈夫ですよ。この辺りまでなら、日中はそこまで危険な場所じゃない」
その場慣れた口調が、改めて彼の出自を物語る。
仕事中の彼を見る分には、どこにでもいる純朴な青年なのだが―――彼の出身はあくまでここなのだという事実を、その口振りが如実に物語っていた。
「その様子だと迷ったみたいですね。僕はこのまま帰りますけど・・・もしあなたの「用事」がもう済んでいるなら、一緒に出ますか?」
「!いいのか?正直困ってたんだ、助かるよ」
「・・・帰り道のことも考えないでこんなところまで来てしまうなんて、僕はいっそ貴方を尊敬するよ」
それまで、場所が場所であるせいか殆ど表情を変えなかったアレルヤが初めて笑みを見せた。
やはりというかなんというか、彼の笑顔は心臓に悪い。
勝手に早くなった鼓動を落ち着けながら、ロックオンはアレルヤと並んで歩きだした。
まだ捜査の途中ではあったが、無事に出られないとなれば話は別だ。
とにもかくにもここをぬけだし、迷わずにこの界隈を歩く手法を考え出すのが先決だった。
「北は危ないと言われているけど・・・実際に危険なのは一部だけで、この辺は場所さえ選べば比較的安全なんです」
「こんな、違法建築まみれのエリアがか?」
「はい。路地が複雑に入り組んでいるおかげで、危険が迫ってきても逃げられます。僕らのような子供でもなんとか生き延びることができたくらいだから」
「・・・ずっとふたりきりだったのか」
「親が途中まで育てていたのかもしれませんが・・・覚えていません。仲間はいたけど、血がつながっている―――えっと、「家族」と呼べたのは、ハレルヤだけです」
なんでもないことのようにそう話したアレルヤの表情は、いつもと変わりがなかった。
それが逆に痛々しいと感じたが、しかし彼は慰められることをよしとはしないだろう。
こういう部分では絶対に弱さを見せようとしないという性格は、最近の彼とのつき合いでよく分かっていた。
きっとその壁が崩れるのは、彼の内側に入れた時なのだろう。
(くそ・・・ッ冗談じゃねーぞ)
再びじわりと滲み始めてきた感情を押さえつけながら、ロックオンは虚空を睨みつける。
もう大切なものは絶対に作らないと、弟と二人きりになってしまったときに決めたのだ。
だから、誕生日の度に妹がくれたプレゼントの数々や家族との思い出の写真をすべて燃やしたし、両親にねだってようやく買ってもらった人工知能付マイクロユニットだって捨ててしまった。
弟を失うかもしれない恐怖を味わいたくなくて、弟とも疎遠になろうとしていた。
だから、弟が誰とつきあおうがどうでもいいと思っていたのだ。
職業柄どうしても身辺状況は身ぎれいにしておく必要がある為、親族である自分が調べないなら、誰かしらが代行して調べあげて報告書になっていただろう。
それでも、仕事の合間にとはいえ、こうして自分で調べているということは、きっと自分はまだ弟に無関心になりきれていないに違いない。
要するに自分は、結局すべてを捨て切れていないということだ。
「――――――ロックオン、出口ですよ。・・・ロックオン?」
「ん、ああ、悪いなアレルヤ。考えごとをしてた」
ふと気づけば、スラムの端ーーー工業地帯との境目に到着していた。
せっかく道を覚えるつもりでいたのに、考えごとに熱中していたから覚えられなかったようだ。
わずかに落胆しつつ、ロックオンはお仕着せの笑みを浮かべたがーーーなぜかアレルヤの表情は晴れない。
どうしたのだろう、と不思議に思っていたら、なぜかアレルヤが歩み寄ってくる。
「・・・もしかして、調子が悪いんですか?」
そんな筈はない、と返そうとしたのだが、言われてみれば気だるく感じられるような気がした。
微妙な表情の変化で質問の答えがイエスであることを悟ったアレルヤが、険しい顔でそっと手をのばしてくる。
「熱はないみたいですけど・・・早く帰って休んだ方がいいですよ」
「どうやらそうみたいだな」
「送っていきます」
「おいおい、そこまで心配されるようなことじゃ――――」
「そういうけど、貴方は自分の事にはまるで無頓着みたいだから。せめてこのくらいの心配はさせてください」
そういってアレルヤが見せたのは、よくカウンターでみせてくれる鉄壁の笑顔。
こういう顔をするときは何が何でも人の意見を聞き入れないことを分かっていたロックオンは、早々に彼の説得を諦めた。
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