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現代5ライハレ

※これまでの話はMAINのパラレルカテゴリ「現代」にまとめました









――――――最も会いたくない場所で出会ってしまった。
今時珍しい、重たい紙の資料を手にして足早に歩いていたハレルヤは、一瞬どう応対したらいいのか分からなくなってその場に立ち尽くしてしまった。

「本当に"ハレルヤ"って名前だったんだな。驚いた」

学校の生徒名簿らしきものを手にした男は、学籍番号E-0057【ハレルヤ・ハプティズム】の項目を指差しながら、にっと笑いかけてくる。

…個人情報保護法は何処へ行ったのだろう。
考えてすぐに、己が法の保護範囲外の人間であることを思い出して嫌な気分になる。
好きであの場所に捨てられていたわけではないのに、捨てられていた場所があそこだったが為に、自分には生体IDがなく、保護されるべき権利も人権も存在しない。
IDがないということは、すなわち「国民」というカテゴリにすら入っていないのだ。
今や家畜やペットにすら個々にIDがあるというのに、自分たちにはない。
それは、遠まわしに家畜以下であるという事を示唆されているようにも思えて、やはり気分が悪くなる。

勿論、物心ついたころからこの境遇だったので、今更どうというつもりもない。
法に守られない分、自分の身は自分で守り、自分で立てていくのだ。
スラムに住む者はそういった意識を持つものが多く、大抵何かしらの自衛手段を持っているし、金を稼ぐ術というものを各々持っている。
法に守られないから法に準じた金稼ぎなどする者は皆無に等しく、大概において所謂「犯罪」に該当する手段を用いているものが多かった。

教育を受ける権利も義務も持っていないから、勿論ハレルヤのように「学校」へ行く者も稀である。

「…なんでテメェがここにいる!」

「何でって、俺先生だし?」

いつもの飄々とした調子で言われたものだから、一瞬ハレルヤは言葉の意味が理解できなくて、珍しくその鋭い金の目をぱちくりと瞬かせる。
その様子が意外で面白かったのか、男が名簿を仕舞いながら小さく噴出した。

「――――――正確には、お前達にものを教えに来てるわけじゃない。"研究"の一環ってやつだな」

こういう学校の教師ではなく、専門的な学校で特定の学問だけを教える講師なのだ、と、男は簡単に己の身分を明かした。

「しかしまあ、フィールドワークの途中でお前に会うとは思わなかったな。お前、お菓子とか好きだったっけ?」

「うっせえ!行けって言われたから行ってるだけだ!」

もっていた教材を思い切り叩きつけて、ハレルヤはくるりと踵を返した。
全く、ついてない。
周りの者に進められて通い始めたパティシエの専門学校で、まさかあの男に会うなんて。
しかも、アレルヤと共に決めた名前まで知られてしまった。

ハレルヤというのは通り名として既に周りに知られているらしいので構わないのだが―――せめて成人するまで、ファミリー・ネームは知られたくなかった。

ハレルヤは、恥ずかしいのか苛立っているのか自分でも自分の気持ちに整理がつかないまま、ひたすらに廊下を突き進む。

元々は自分で作った方が早いから、と始めた菓子作り。
喧嘩に明け暮れる中、息抜きにと数年ぶりに作ってやった時の兄の嬉しそうな顔が忘れられなくて、周囲とアレルヤに薦められるまま、入学してしまったのだ。
資金援助者はスラムの側にある修道院の女だ。
以前からアレルヤと仲が良かったらしい女は、何も言わずに身分保証書なるものを自分の名で作成して、ハレルヤをこの学校へと入れた。

『貴方の作品、楽しみにしているわ』

そう言って微笑みかけた顔は、なるほど修道院という場に似合いの、慈愛に満ちた顔だった。
あの女に報いるという気持ちでここにいるわけではないが、スラムにおいて一般的な方法以外で身を立てるチャンスを与えてくれたことには、感謝している。

スラム式に従っていたら、自分たちはいつまでも泥濘で足掻く日々しか送れない。
それが分かっていたアレルヤとハレルヤは、だからこそスラムのやり方に反した生活を送ってきた。
まだ力がなかったときは、仕方なくスラムのやり方で生きたが―――十三を過ぎた頃からは、徹底してスラムのやり方から遠ざかってきた。

そんな最中、スラムの人間である己を面白がっている風でもある男に見付かってしまったのは、ハレルヤにとって不幸以外の何物でもない。

あの男は、一体ここで何をするつもりなのだろう。
顔にこそ出さなかったが、内心ハレルヤは気が気ではなかった。









*****************************
今急に思い立った謎の設定(笑
ハレルヤ=パティシエ見習い
ライル=研究者
一番研究者から遠そうだなと思ったけど、そういえばライルのあのなんともいえない斜め後ろからものを見てる性格、誰かに似てると思ったらある学問の先生に似てたんだ。
って訳でその方向にしました。

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