※長髪ルヤ(26)とハレルヤ(19)設定のハレルヤ学校編
ライルは学校事務
「こら、利用登録は」
そのまま学事部の受付窓口を通り過ぎようとしたハレルヤを呼び止めたのは、聞きなれない男の声だった。
この目つきのせいか、何もしていないが大学職員から少し距離を置かれているハレルヤに声をかけたりするような勇気のある人間はほとんどいない。
その上職員は多忙のためか規律の遵守については重視しておらず、入試の準備だとか学内行事の準備や片付け、そして教授連中の使い走りなどに奔走してばかりだった。
この見慣れない男は、そんな多忙な学事部の新人として入ってきたのだろう。
よく見てみれば、男を始め、去年はいなかった顔がちらほらと見受けられる。
結論を見つけたハレルヤは、立ち去ろうとした足を止め、まっすぐに男を見やった。
「新入りか」
「そりゃこっちの台詞。新入生か?コンピュータ・ルームの鍵を持っていきたいなら、利用者カードをここに入れてからだ」
男は窓口の脇に置いてあったコンピュータ・ルーム用の赤いファイルを、パシ、と叩いてみせた。
それは所謂カードホルダーで、開いてすぐの小さなポケットに鍵、それ以外の場所には利用者の顔写真がついたカードを入れる仕様になっている。
勿論ちゃんと登録しているのは一部のまじめな学生だけで、ハレルヤのような若干不真面目な学生は、無断使用しているというのが現状だった。
「面倒だから登録してねェんだよ」
「ほら、登録用紙。仮カードでも利用はできる」
「写真撮るんだろ?面倒」
「…俺だってかったるい。でも一応管理はしなきゃならない立場なんでな」
肩を竦めて同意してみせると、男はそう言ってハレルヤの目の前にボールペンを置いた。
「…」
「……」
「…………」
男の有無を言わせない威圧感に負け、ハレルヤは仕方なくペンを手にとった。
悪いのはもちろん自分だが、なんとなく屈辱的である。
(…なんだ、思ったより素直だな)
憮然とした顔で黙々とペンを走らせているハレルヤを見ながら、男は男で感心していた。
同じ大学の違うキャンパスで働いていた彼は、つい先日、学部がひとつ増えたことにより急激に学生が増えたこのキャンパスに異動になった。
忙しさ故に決まりを守っているかどうかを確認する者もなく、学生利用施設は荒れ放題。
この学生が使おうとしていたコンピュータ・ルームも、時間帯によっては変な学生の溜まり場になっているという。
その変な学生の一人ではないかと勘ぐって、つい厳しく声をかけてしまったのだが―――それはどうやら勘違いだったらしい。
「これでいいだろ」
「よし、じゃ、今カード持ってくるから待ってろよ」
登録用紙を受け取ってちらりと名前欄を確認する。
ハレルヤ・ハプティズム。
新設学部の二年生のようだ。
二年ならどこの研究室に入るかそろそろ目星をつけなければならないし、研究の方向性も固める時期だろう。
よくよく見れば、彼のかばんの隙間から資料用らしき分厚い本が何冊か覗いていた。
「―――――じゃ、ここに入れとくから。鍵返しに来る時か帰る時に持って帰るんだぞ」
「アー、分かった分かった」
「発表の準備か?ま、がんばれよ『ハレルヤ』」
ひらひらと手を振ってやると、いきなりファーストネームを呼ばれたことに気分を害したのだろう、むっとした顔でそのまま踵を返して学事部を出てしまった。
「…あら、どうしたの?ライル。ずいぶんご機嫌みたいね」
新規入学者名簿の整頓をしていた同僚のアニューが、学事部の出入り口を眺めていたライルの表情に気づいて声をかける。
彼女の指摘でようやく自分が浮かれていることに気づいた男―――ライルは、苦笑いを浮かべて机に戻った。
「ん?そうか」
「ええ、お気に入りの学生さんでも見つけたのかしら」
「うーん、ま、そんなところだ」
アニューはここの所属になって早二年だが、それより前はライルと同じキャンパスにいた、いわゆる馴染みの同僚である。
鋭い彼女のことだ、何も言わなくてもそのうちライルのお気に入りの学生が誰なのかくらい、すぐに当ててしまうだろう。
「二週間以内に当てられたらランチをおごるよ」
「本当?なら、私頑張ってみようかな」
「…本気でやられると分が悪いな」
とたんにはしゃいだ声を上げたアニューに適当に相槌を打ちながら、ライルは遠くなっていくハレルヤの背を見送った。
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例のダブルカップリング話のハレルヤ日常編(笑)
悩みぬいた末ライルは学事部の兄ちゃんになりました…
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