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わんこシリーズ小話

※わんこ小話とかいいながらディラハプメインじゃないですごめんなさい
フェルトのおうち編/外伝キャラ(フェルト両親)出現注意









――――――フェルト・G・レゾナンスは街の中心にあるスクールに通う少女である。
元々そういう性格なのか、同年代の子供たちと戯れている場面は殆ど見かけない。
よくいえば物静かな子供だが、あまりにも子供らしくないので気味が悪いと言う大人もいる。

しかしそれは「すこしだけ感情表現に関して不器用」というだけで、実際には心優しく年頃の他の子供とすこしも変わりがない。
その事実を知る者が少ないのが、とても惜しい少女だった。


彼女は一週間に一度、昼を少し過ぎた頃、ロックオンの店に珈琲豆の買出しに訪れることを習慣としており、そこで知り合ったクリスティナ・シエラ・ツェーリを姉のように慕っている。
彼女と付き合うようになってから、すこし笑顔が増えてきたようだ。
ロックオンは注文分の豆を焙煎してやりながら、相変わらず無表情でカウンターに佇む少女をちらりと見やる。

「――――――そういえば、フェルトの家は五番通りだったか?」

「はい」

焙煎したばかりの豆を袋に詰め込みながら、ロックオンは先ほどまでフェルトのいる席に陣取っていた客たちの会話をふと思い出す。

「あそこ、最近変な奴がうろついてるんだってな。まだ明るいから大丈夫だろうが、気をつけろよ」

街全体の印象はよくある田舎町なのだが、ここは都市部に比較的近いため、何かと人の出入りが激しい。
その関係で変わった人間が町に入り込み、悪さをすることもよくあるのだ。
口にするとつい不安になってしまい、軒先でトンボを視線で追いかけていたアレルヤに声をかける。

「なあ、アレルヤ。せっかくだから送っていってやれよ」

「…あの、大丈夫ですから」

「遠慮しなさんなって。あいつはあれで結構強いんだ」

「……いえ、その……はい」

断ろうとしたフェルトだったが、結局店主の笑顔に押される形となり、店の看板犬を伴って帰宅することになった。


――――――ロックオンの店の看板犬「アレルヤ」は、生来のものらしい天然じみた行動で客を笑わせてくれる犬だ。
黒い大型犬…シェパード、という犬種らしい彼は、体躯こそ威圧感に溢れているが、性格的にはおっとりとしていて人にも動物にも優しい。
やさしすぎて、時折餌を近所の猫に横取りされることもあるようだが、ロックオンもアレルヤ本人(犬)もどっしり構えていてあまり気にしていないようだ。
スクール帰りの子供達にもみくちゃにされている姿も見かけたことがあるが、彼は尻尾を丸めながらもやや乱暴に撫でてくる子供達に唸り声一つすら上げなかったから、辛抱強くもあるだろう。
それから、多分頭もいい。
ロックオンの言いつけをしっかり理解しているようで、フェルトの横にぴったりくっついて歩いている。

「本当にお利巧さんなんだね、アレルヤ」

自分の言葉も分かるだろうか、と思いつつ話しかけてみると、銀灰の目をフェルトの方にちらりと向け、彼はゆったりと尻尾を一振りした。
まるでありがとう、とでもいう風なそのしぐさを見て、フェルトもつい笑顔になる。
もしかすると、彼には人間の言葉がすべて分かっているのかもしれない。

「ロックオンは心配していたけど、私はあまり不安だとは思っていないの。確かに見かけない人はいるんだけど、何か探しものをしているだけみたいだし」

話しかけつつも独り言くらいのつもりで話し始めると、アレルヤの耳がぴくりと動く。
その様子が話の続きを聞きたがっているように思えて、フェルトは言葉を続けることにした。

「フード被ってるから顔は分からないんだけど…多分、私のパパと同じくらいの年の男の人でね、いつもじゃないんだけど、時々あの辺に――――――」

「!」

そう言ってフェルトが指差した先を視線で追っていたアレルヤは、思わず身を硬くする。
そこには、彼女の言う通りの背格好をした男がいたのだ。

「…っ」

気づかれたと知るや否や、男は急に近づいてくる。
フェルトは驚いたせいか足がすくんで動かないようで、眼を見開いたまま固まっていた。

「――――――あ、アレルヤ!」

「うわぁッ!?」

フェルトが動けないことを悟ると、アレルヤは逆に男に向かって駆け出した。
威圧感のある大型の犬が急にこちらに向かってきたことで、逆に男は怯んだらしく、急に歩みを止めた。
しかし、歩みを止めたからといってアレルヤの攻撃姿勢は変わらない。
彼は、一瞬、逃げるべきか留まり戦うべきか、悩んだようだ。

アレルヤは、ロックオンからの指示がある為「引く」という選択肢はない。
男をフェルトから引き離そうと…あるいは撃退しようと腕に噛み付きかけたアレルヤだったが、その寸前で聞こえた少女の叫び声で、ぴたりと行動を停止させた。

「……パパッ!?」

「…………?」

フェルトのその言葉で完全に敵意を引っ込めたアレルヤが、分からないという風にきょろきょろと男―――否、フェルトの父とフェルトとを交互に見る。
その人間くさい仕草に苦笑しながら、フェルトはゆっくりと歩み寄りながらアレルヤに説明してやった。

「ごめんね、アレルヤ。この人は私のパパなの。…パパ、この子、あのカフェの」

「ああ、ロックオンのところの!噂はマレーネから聞いてるよ」

言いながらフードを脱いだフェルトの父は、ぱっと見た印象だとフェルトとは全く違う印象の男だった。
赤銅色の髪で、快活そうな性格だと分かる表情やしゃべり方をしており、身体からは僅かながらにオイルらしき匂いがする。
カフェ暮らしが長くなってすっかりコーヒーの匂いに慣れてしまったアレルヤは、思わず少し距離を取ってしまった。

「あー悪いな、オイル臭かったか」

「……」

「すまんすまん、いじめた訳じゃないんだ。そんなしょげた顔するなって」

フェルトの父は、急に申し訳なさそうな顔になったアレルヤに苦笑して、ぐりぐりと頭を撫でる。

「それで、どうしてこの犬と歩いてたんだ?」

とにかく帰宅しようという話になり、二人と一匹はようやく歩き出す。
道中、アレルヤと歩いていた経緯を聞かれたので、先ほどのロックオンとのやりとりをそのまま伝えると、彼は納得しきりとばかりに深く頷いてみせた。

「ああ、それは俺も聞いた。だから、こうしてこっそりお前の後をついていってた、って訳だ」

…どうやら、彼は護衛のつもりで後をつけていたようだ。
それが、余計な噂を広げ、街の人間を不安がらせていたことを知ると落ち込んでいたようだが、どうやら悪い人間ではないらしい。
嘘の匂いを感じないことを確認すると、アレルヤはようやく警戒を完全に解いた。
実のところ、彼はずっと、フェルトの父に化けた別の人間ではないかと警戒していたのだ。

「でも、パパ。お仕事忙しいんじゃなかったの?」

「一人娘が危なけりゃ、仕事なんていくらでも都合をつけてやるさ」

言いながら、彼は器用に片目だけでウインクをした。
親子のやりとりを眺めながら、アレルヤも邪魔にならないよう、家路へとつく二人の少し後ろをついていく。
育ての親であるティエリア以外に親と名のつく存在を知らないアレルヤにとって、彼らの会話は興味深いものだった。





++++++++++++++++++++++++++++++

まだかきかけ。
外伝知らない人用にフェルト両親ご紹介(↓)
ルイード・レゾナンス
フェルトパパ。
自動車メーカー『CB』の開発チーム所属。一応チーフで人望はとても厚い。
子煩悩だけど暴走すると手がつけられない。若干可愛がり方とかセンスとかがズレている。

マレーネ・ブラディ・レゾナンス
フェルトママ。
半ば趣味で洋菓子屋「プルトーネ」をやっている。味はシンプル&素朴系。
性格はクールを装っているが熱く、子育てを面倒がるふりをしつつもルイード同様、大変な子煩悩。
動物好き。

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