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※仮面字茶で出てきたネタを文章化したもの。
当方「かっぱ」という名でこれを某所に落としてきました。もったいないので転載。
マルクト帝国では毎年この季節になると、他国の者が聞いたなら一笑に伏してしまうであろう、馬鹿げた勅命が下る。
実りの秋も終わりを迎えようとしているこの時期―――唐突に、国境警備の者を除いた全軍に「仮装」が命じられるのだ。
当然それには特例などありよう筈もなく、マルクト軍トップであるノルドハイム将軍以下上位軍人を含めた全員が、それぞれの受け持つ部隊ごとに統一感のある仮装をする。
ここ数年は自棄になる者もなく、いっそ開き直って楽しんでしまおうと考える者さえ現れてきた。
いよいよもって議会でこの馬鹿げたイベントの中止を進言するタイミングを失いつつあったジェイドは、そのせいで今年もひどく不機嫌である。
「……フリングス少将」
軍本部会議室では、情勢が悪化しているわけでもないというのに、いやに深刻そうな顔をした上位軍人達が集まっていた。
大佐という地位でありながら、何故かノルドハイム将軍を差し置き会議テーブルの上座に座っている皇帝の懐刀ことジェイド・カーティスは、複数枚の書類を己に手渡してきたやはり上司にあたる軍人―――アスラン・フリングスを見上げてにっこりと微笑み声をかけた。
微笑まれつつ声をかけられれば当然悪い気はしないはずなのだが、心なしかフリングスの返した笑みは引きつっている。
「はい、なんですか」
「最近私も視力が落ちましてねえ。この書類の末尾にあるものが、陛下の御璽に見えてしまうのですが」
「…残念ながら、それは確かに陛下の御璽です。ジェイド大佐」
言いながら、フリングスはジェイドに渡した書類に記載されている文面に目を走らせた。
仮装なんていうのは毎年のことなので特に驚きはしないのだが、今回、その仮装内容にまで注文がつけられたらしい。
文書を流し読みしながら、心の中でご愁傷様です、と手を合わせる。
「…今年の仮装は陛下のご指示で師団ごとにテーマを決められてしまったようです。一週間前までには衣装が支給される筈ですから、サイズ等は予め確認をお願いいたします――――――以上、散会」
聞く人が聞けば投げやりだとすぐに分かるような口調でまくし立てると、ジェイドは書類を半ば握りつぶすようにしながら立ち上がった。
ご丁寧にも各師団ごとに出されたその書類―――指示書は、ジェイドが握りつぶしている一枚以外は無事のようである。
そのうちの一枚である第一師団あての指示書を渡されたフリングスは、見た瞬間なんとなくほっとした。
「…第一師団は全員"吸血鬼"ですか」
「ええ。第二師団は"狼男"、そして第三師団は……いえ、これは変更すべきですね」
これが実行されたら私はクーデターを起こしますよ、と、本気なのか冗談なのか分からない独り言を呟きながら、ジェイドはフリングスの視線を振り切るようにして会議室を飛び出していく。
仕事に対して実直であるフリングスは、残念なことに書類の作成者である陛下…ピオニーから書類を託されてからジェイドに手渡すまでその中身を見ていなかったので、彼の擁する第三師団の仮装として何が指定されたのかを知らない。
「なんじゃ、ジェイドは今回の指示が不服だったか?」
「ゼーゼマン参謀総長」
書類を渡されたまま呆然と突っ立っていたら、隣にいつのまにか老参謀ゼーゼマンが立っていて、フリングスは僅かに驚いた。
ゼーゼマンは、意味深な視線を一瞬だけフリングスへと向けると、途端にからからと笑い始める。
「なに、どうせいいように言いくるめられて帰ってくるじゃろうて」
「そうだとは思いますが…一体、何を指定されたんでしょうね」
「そりゃあ、さすがに予想ができんのう」
何せあの陛下のことじゃからなあ、と笑う彼は、軍内部における「開き直り組」の一人だった。
フリングスもここ数年は諦めの方が勝っているので、恐らくあと何年かすれば、彼と同じ開き直り組の仲間入りをするだろう。
そもそも無駄に頭の回転が速く口がよく回るピオニー九世陛下に勝つことができる人間というのが、極端に少ないのだ。
軍のトップであるノルドハイム将軍でさえ諦念一色の顔でこのイベントを受け入れているのだから、それだけでもいかに皇帝に口で勝ることが難しいのか推し量れるというものである。
それゆえに、軍内で皇帝に真っ向から対抗しているのは、ここ数年はジェイドただ一人となっていた。
「……あ」
ふと、先ほどジェイドが握りつぶしてしまった書類らしき紙がドアの横に落ちているのを見つけたフリングスは、思わず歩み寄ってそれを拾い上げる。
予想通り、それは第三師団師団長宛ての指示書で―――その内容を確認して、思わず苦笑してしまった。
「指示書にはなんと?」
「……"悪の動物使いとそのしもべたち"だそうです。」
わざわざ、動物についてもブウサギだのチーグルだのと細かい指定までしてある。
師団全員が着ぐるみで闊歩する姿を想像すると、間抜けを通り越していっそ壮観ですらあった。
その上、よくよく見てみると、ジェイドの装備について、文書の末尾に「鞭つきで」と注釈が入っている。
着ぐるみ集団の想像図の先頭に鞭を手にしたジェイドの姿が加わって、その異様な迫力に、書類を見たその場にいた全員が思わずごくりと唾を飲み込む。
恐らく…いや間違いなく、第三師団の者は拒否するどころか喜んで着ぐるみに袖を通すはずだ。
「一応公文書にあたりますので、これは第三師団の副官に届けておきますね」
ひとまず、フリングスはその指示書の皺を伸ばして自らの書類にそっと重ねた。
恐らく、ハロウィン当日は仏頂面をした第三師団師団長と着ぐるみ姿の第三師団の面々が見れる筈だ――――――。
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自作品という事でこちらにも投下しました。
あふぉの方に掲載する勇気はなかった…(笑
多分第三師団はマジで喜ぶと思う。奴らジェイド大好きだから。
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