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みつめてハニー!

※グッコミ新試読版。
少女漫画顔負けのライハレです…










「おかえり」という己によく似た声が出迎えたのに対し、ライルは不機嫌そうに片手を挙げるだけでそれに応えた。
エプロン姿のままでわざわざ玄関先までやって来て弟を出迎えた兄―――ニールは、予想通りの反応を見るなり苦笑する。

「不機嫌そうだな」

「兄さんは夏期休暇で優雅な休日。対する俺は夏だろうが冬だろうが忙しい」

「そりゃ、仕事も違うから」

妻よろしくカバンを受け取りつつ、ニールは困ったような笑みを浮かべて弟の愚痴を聞き流す。
この時期、どういう訳かライルの機嫌は降下一方なのだ。
元々気分屋でその時の気分によっては異様に仕事がはかどったり滞ったりとムラのある弟だが、今年は特に調子が悪いらしい。
かつてないほどの突っかかりようを気にしておどけて出迎えてみれば、この通りだ。
想像以上の様子を目の当たりにして、ふざけたそぶりを見せながらも兄の観察眼が鋭い光を見せる。

夏という季節ではあるが、このアイルランドは他国に比べて過ごしやすい環境だとよく言われている。
アメリカに滞在していた期間のあるニールはその言葉が身に染みてよく分かるが、アイルランドから出たことのないライルにとっては、十分すぎるほどに暑い。
その上日が落ちるのが遅い為に、夜の九時を回っている現在でも窓の外は昼間同然のように明るかった。
この国の常にしては随分あたたかな陽の光が容赦なく差し込む窓を睨みつけながら、ライルはスーツを脱ぎ落としていく。

カバンを置く為に部屋までついてきたニールが後ろにいたが、ライルは微塵も気にしない。
兄の世話好き…否、余計なお節介は今に始まったことではなく、むしろ気にする方が馬鹿馬鹿しかった。
長期の休みで浮かれた気分が態度にも出ているのか、兄はいつもよりも陽気に見えて、ライルは理不尽だと分かっていながら、何となく面白くない気分になる。

「いいよなあ、アレルヤも同じタイミングで休みなんだろ?俺なんか」

「どうした、彼女にフラれたか」

部屋に無残に散っている昨日着ていた服を拾い集めながら言われた軽口に、ライルは不機嫌さを隠さずに振り返る。

「……それはもう何年も前の話。いいかげん蒸し返すのやめてくれよ」

言い返してから、自分の子どもじみた嫌味を改めてつき返されたような気分になって、ライルはすぐにクローゼットに向き直ると、黙って着替えを再開した。

「今日の態度は暑さのせい、ってことにしといてやるよ」

「……」

「仕事で何か嫌なことでもあったか?」

「…いや、」

逡巡した後、ライルは緩やかに首を横に振る。
大抵のことは、兄は夏の暑さに参っているせいだ、と片付けてくれるのだが(実際、暑さは多少なりとも不機嫌の要因になっている)――――さすがにここ数日の態度は、それだけでは片付けきれないあからさまなものだった。
それだけ兄の気を揉ませてしまったという申し訳なさも手伝って、ライルは問題ない、とばかりに笑いかけながら軽く手を上げてみせる。

「何、片想いの相手がつれないだけさ」

我ながら白々しいと思ったが、嘘でもない言葉を口にしたことで、兄は少しは納得してくれたらしい。
ふう、と息をつくと、ニールは夕食の準備があると言って退室していった。









「…やっぱり今日も連絡なし、か」

足音が遠ざかってから通信端末の受信状況を確認すると、相変わらずのブルー・ランプで受信の履歴は残っていない。
気づいたら癖になったこの行動だが、あの初めての通信以外でハレルヤ自らが通信を繋いできたことはなかった。

(ほんと、この時期のハレルヤって冷たいよなあ)

ニールが夏期休暇で自宅にいる期間、どういう訳かハレルヤは疎遠になりがちだ。
逆にアレルヤは頻繁に連絡をしてくるようになるのだが、彼らの会話の端に出てくるハレルヤという名前に過敏な反応をしてしまう己がひどく滑稽に思えて、ライルはどうにも落ち着かない。
感情的な問題なのか、彼の職業柄なのか。
考えた末に、ある日聞いたこともあったのだが、当然彼が素直に答える筈もなく、適当に流されてしまった。
そんなわけで、ライルは己の仕事を明かすタイミングまで見失ってしまって―――お互いに何を仕事としているのかさえきちんと知らないでいる。
アレルヤか兄に聞けば、あるいはその答えを得ることができるのかもしれない。
だが、なんとなくそれは反則のような気がして結局聞けないままでいた。

今、何をしているのか。
思い人のなんでもない日常さえ想像できない己がもどかしくて、ライルは思わず癖のある栗毛をぐしゃりとかき混ぜる。
知っていることは、それほど多くない。
分かっているのは、兄の教え子であったことと「ハレルヤ」という名前。
それからオッドアイの双子である、という事くらいだ。
あとは初めて話をしたタイミングが誕生日だったというから、誕生日は二月の末。
特定のスポーツが好きだという話は聞いたことがないが、フットボールの話を振ると多少は食いついてくる。
しかし、ライルのハレルヤに関する知識はこの程度だ。
しかも、彼に興味があってこれなのだから、己に興味がないであろうハレルヤは、下手をすれば名前と会社員であること以外何も知らないかもしれない。
ある程度仕事の話をしたこともあるが、それはどの企業であってもよくある話だ。
だから、ハレルヤはライルが具体的にどんな仕事をしているかは知らない。

物理的な距離が近いなら、何かの拍子に知ることもできたかもしれないが―――相手が海の向こうではそれさえかなわない。

(あー、なんでハレルヤの母国はあっちなんだ…)

考えても仕方のないことをぼやきながら、適当なシャツを羽織る。
そもそもニールが留学して家庭教師のアルバイトをしよう、なんて思い立たなければ、ハレルヤという子どもの存在を知ることはなかった。

兄が嬉々として見せてきた写真に写っていた、小生意気そうな金目の子ども、それがハレルヤの第一印象。
最初の教え子であり一番のじゃじゃ馬だという彼は、しかし理解力は人一倍ある子どもだったという。
喧嘩っ早いが短慮という訳では決してない、と断言していた兄の言うとおり、当時ぴったり二十歳になったという彼と話した印象は、兄と同一のものだった。

生意気そうだが、悪いやつではない。
そうだ、あの時彼は留学を終えて帰国して以来ずっと疎遠だった恩師と話がしたい、と口にした己の兄―――アレルヤの為に、滅多にしない通信をしたのだ。
その日に限ってたまたま端末を忘れたニールに代わってそれを取ったのがライルでなかったら、きっとハレルヤと話すこともなく、日々が過ぎていただろう。

それが、今はどうだ。
日々彼の事ばかりを考えて、兄という媒体を抜きにした文通ならぬ電通も五年目となった現在、特定の時期に素っ気無くなるハレルヤの事を考えては仕事もろくに手につかない。
これでもう今年で三十を数えるというのだから、いい笑いものだ。
ご飯だぞ、という暢気な兄の声を背中に受けながら、ライルはがっくりとうな垂れた。










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こんな感じです(笑)
例の如く王道展開です☆
ライハレもっと広がれ私が読みたいぞガンダムぅううう!!!!!!!!
 

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